婚約者がアンタじゃなかったら、
私は今頃おいしいディナーにありつけていたというのに・・・・・
a faint light
「・・・・・・・・ックシュン!」
大きなクシャミが出た。
そりゃそうだ。コートはレストランの受付に預けてきたんだから。
私は今、薄いドレス一枚。寒いに決まってる。
「俺が婚約者じゃなかったら危険だったな」
「は?」
「その赤いドレス、すんごい魅力的。ってか、魅惑的?」
「気合入れてきた意味なくなった」
「どーゆう意味、それぇ」
「ハハッ・・・・・・・・ホラ」
ディアッカが着ていた上着を脱いで渡してきた。
「・・・・・・・・」
素直に受け取る。暖かかった。
「ありがとうのキスは?」
「なんでアンタにお礼言わないといけないわけ?もとはといえば・・・・」
ムギュ
「な、なにアンタ・・・・・いきなり」
ディアッカの腕が私の腰に回って、
いつのまにか私の顔はディアッカの肩にすっぽりおさまっている。
「あったかいじゃん、こっちのほーが」
いつもつけているディアッカの香水。私はこの匂いに弱かった。
いつもは違う女の香水が混じってて別に何も感じなかったけど、
今日はさすがに元の匂いに近かった。
「私は幼馴染以外の感情なんて持ち合わせてない」
「そんなこというのはこの口か?」
片手で私のアゴを持ち上げる。
ドキドキなんかしない、こんなタラシ男に。
「笑ってよ」
「なんで」
「寂しいじゃん」
「あっそ」
「はぁ〜あ」
大きく溜息をつくディアッカに私は笑った。
「やっと笑った・・・・」
「あんたのその百面相が面白いだけ」
「なにはともわれ、やっと姫が笑ってくれたので、本題にはいろーか」
「なにを言われても結論は同じだからね」
「なんでそんな俺のこと嫌いなフリすんの?」
その発言に私は思いっきり嫌な顔をした。
「フリ!?フリってなに?!!」
「だって二年前、俺が捕虜になったとき大泣きしてただろー?」
「してない!!」
「いーや。ママさんに聞いたモンね」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「でも一番確信を持てるのは、俺が帰ってきたとき?」
「・・・・・・あ、あれはっ!!!」
「お前、ボロボロに泣きながら俺に抱きついてきたじゃないの」
返す言葉もない。確かに泣いてた。アンタの目の前で初めて。
「あの時、嗚呼 帰って来れてよかったな。って思った」
ディアッカの腕が私の腰から肩に移動する。
そして力強く抱きしめられる。
「・・・・・・・・・・・・・」
「俺、あの戦争で死んでもいいとか思ってたし」
「・・・・・・・・ホントなのか!?」
「んな怒るなって」
「バカ!死んでもいいとか死んでも言うな!」
「ハハッ だって、の世界が平和で、が幸せに暮らしていけたらソレでいいかなって思ったんだ」
「・・・・・・・・・・・大バカ野郎」
「大までつけないでくれよ」
「分かった」
「え?」
「婚約者には、なってあげるよ」
「にはってナニ?」
「でもほかに好きな人が出来るかもしれないし、あんたが浮気したら即前言撤回する」
「・・・・・・・・・マジ?」
「好きなんだ、多分」
「!?」
「恋愛感情か、ただのクサレ縁だからか分かんないけどさ」
そう言った瞬間、さらにきつく抱かれた。
「愛してる。ずっと愛してたんだ。俺にはしかいない」
耳元から来るアンタのくさいセリフが、なぜかかゆかった。
「いつも女口説くセリフ、アリガトさん」
「愛してるなんか言った事ないし 俺」
「嘘がお上手っ」
「嘘じゃないって・・・・・・・・・」
そのまま、ディアッカの唇が私の唇に真っ直ぐ近づいてくる。
バチン
ディアッカの頬は赤くなる。
「いってぇ・・・・・・・・なにすんのぉ」
「スグ調子に乗るだろ?私はまだあんたに身体売る気なんてないよ」
「売るって・・・・・・・・・」
「さ、レストランに戻るわよ?」
ディアッカに手を出す。その手を頬を擦りながら掴むディアッカ。
「幼馴染から抜け出すの大変そうだなァ 俺達」
「達?私は抜け出そうなんてこれっぽっちも思ってないし」
「じゃ、俺が抜け出させてあげる」
じっとこっちを紫の瞳が見る。
またキスされるのかと思い、拳に力を入れる私。
だが、ディアッカはただ手を繋ぎなおしただけだった。
「こうやったら、恋人同士に見えんじゃない?」
ただ指をからませただけの手。
「・・・・・・・やっぱアンタってバカ」
「聞きなれてますよ」
語尾にハートマークをつけたことに半ば呆れた。
「になら、いくらバカって言われたって構わない」
「病気か・・・・・・・」
「そうだな。が好きだから」
そう言ったあとのディアッカの表情がなぜか優しくて、私は直視できなかった。
あぁ、そうだ。いつもそうだった。
アンタの紫の目にはいつも弱いんだよ。
「ってゆうか、お腹減った」
「色気ないな、相変わらず・・・・」
「アンタのせいじゃないの」
「はいはい・・・どうする?戻るの?」
「どこでもいい。ハンバーガー食べたい」
「はいはい、奢らせてもらいます」
「そういうとこ好きー」
「俺もそんなキレーなドレス着て、むしゃむしゃハンバーガー食べるが好き」
「物好き」
案の定、ジャンクフード店の客と店員に穴が開くほど見詰められたのは言うまでもない。
「うまい?」
「うまい」
アンタとこんなことできるなんて、戦時中は思いもよらなかったよ。
多分、幼馴染で悪友のディアッカと婚約しても、いつもとなんら変わりないと思うし、
まー、一緒に居すぎたから飽きてきたってゆう事実も否定できないけど。
うん、でもアンタが帰ってきて、泣いて喜んだのも事実。
欠くことのできない存在。
んな、カッコいいもんでもないけど、やっぱいないと落ち着かない。のかも。
これからいっぱい面白いこととか楽しいこととか、悲しいこととか嫌なことがあっても、コイツとならそれでもいいと思える。
そんなことで一喜一憂できるようになって、やっと平和だなって実感が湧くのかもしれない。
「ひとつ」
「ん?」
コーヒーを飲みながら私を見、なに?と言った。
「もう、私を泣かせないでよ」
一旦驚いた顔をしたディアッカは、深く頷いて、微笑んだ。
END
でぃあっかむずい