九時をまわったころ。
「おとーさん、まだぁ〜?」
「もうスグだから待っててあげてね?夏希」
泣き出しそうな夏希をなだめていると、玄関の方からドアの開く音がした。
「おとーさん!?」
夏希の顔がパァッと笑顔になった。そして、思わず私までその笑顔につられてしまった。
真夏の夜
「すまんっ夏希!遅くなって」
「アレ?私には?私も待ってたのになァ」
「もすまん!!ちょっと会社でトラブルがあってな?やっと終わったんだよ」
「おとーさんっ!アレは!?アレは!?」
「おっ、ちゃんと買ってきたぞ?ホレ」
近くのデパートの袋を夏希に差し出した。
夏希が両手でやっともてるくらいの大きさ。その中身は、夏には欠かせないものを作るためのもの。
水とシロップが材料の・・・・・・そう、カキ氷!!
「わ〜い!!かっきごおりぃ〜!」
すぐさま、リビングルームにダッシュ。重いからバランスが取れなさそうだ。
「おいおい夏希。俺はもう用済みか?」
「はやく着替えて来てね?」
「へいへい」
冷凍庫には旦那さえも食べきれないくらいの氷。
「うん。ちゃんと氷ってるわね」
シロップだって、メロンにみぞれにレモン・・・・・・わたしの好きなイチゴもあるvv
「よくもまァこんなに・・・・・・」
ネクタイを緩めながら、呆れ口調に春は言った。
「だって同じ味じゃ飽きるじゃない?」
「そんなに食うのか?」
二人でハハッと大きく笑う。
「ねぇ〜おかーさん!早く食べようよ〜!!」
「お父さんが夕飯食べるまで待っててあげようね?」
「まじか?んんじゃあ、ぱぱっと味わいながら早く食べるわ」
「ハハッ、なんなのソレ」
早く食べようと駄々をこねる夏希に「すまん、ちょっと待ってくれ!」と言いながら、オカズとご飯を交互に食べている 春。
あんなに美味しそうに食べてくれる旦那サマはそうはいないだろう。
一回、六角フレンズにクッキーなんてベタなお菓子を作った。春に食べてもらいたいっていう下心はもちろんありありで。
自慢じゃないけどクッキーなら普通の女の子以上に美味しく作れる。でも、ドキドキしてたよ、ホント。
もちろん、みんな美味しいっていってくれると思ってた。
でも、そのクッキー食べた瞬間、
「ガハッ!!!!?!!」
そのクッキーはおもいっきり吐き出された。なんて馬鹿なんだワタシ!!
はっきりいって穴があったら入りたかった。・・・・・・はい、塩と砂糖を間違えたのはこの私です。
そして、顔から火が出ていた私は、「ごめんね」と逆に謝られながら、みんなのクッキーを回収した。
その時、春は私の手からクッキーをもぎ取った。私を含めみんなの目をテンにさせたバネさんは笑顔でこう言ってくれた。
「みんながいらねーんだったら、俺が全部食う。せっかくが作ってくれたんだからよ」
私の頭に大きな手をのせ、撫でている春は少し顔が赤かった。
キッチンチェアに座り頬杖をついている私はふと思った。
そういえば私の作ったもの、一回も残したことないような・・・・
「春って雑食??」
「ん・・・・・ん?なんか言ったか、」
口にご飯粒をつけてしゃべってる、春。
あァ、なんて愛しいんだろう。
「なんだよ・・・・・・ジロジロ見て」
「ん?かわいいなぁ〜と思って」
「はぁ?」
「おとーさん、はーく たべてー!!」
「わかったって、分かってっから!腕にぶら下がるなってーの!」
「ははっ!夏希、そろそろ作り始めようか。おいで?」
「やったぁ!!」
箱を開けると、よく海の家とかに置いている古風なカキ氷機だった。
ガサガサ
しかも、重たい。
「よくまぁこんな古いの見つけたね?」
「馬鹿にするんじゃねーぞ?そういうのんが一番うめぇんだよ」
「そうなの?」
それでは、ためしに ちょっと
シャリ シャリ シャリ シャリ シャリ シャリ・・・・・・・・
「わぁ〜綺麗!本場のカキ氷だね!」
「やぁらかそ〜う」
「夏、シロップ出してきてくれる?」
「うん、わかった!」
「いいだろ?ソレ」
春が食べ終えたお皿を片付けにきた。
「・・・・・うん。でも重たい・・・・・回すの・・・・・・・」
「マジか?ほれっ変わってみ?」
シャリシャリシャリシャリシャリシャリシャリシャリ・・・・・・・・
「さすがっ 春風」
「なめんじゃねーぜ?まだまだイケるだろ?」
「うんうん、かっこいい かっこいい。男前 男前」
「二回も言ったら嘘っぽいって!」
「・・・・・・っぷ、アハハハっ!!」
「ったくよぉ〜」
「おかーさん!これでいい??」
夏希がシロップを持ってきた。両手で抱えないと持ちきれなかったらしい。
「ありがとうね?重たかったでしょ?」
「だいじょーぶ!ぼく おとこのこだもん!」
「おっ、さすが俺の息子。えらいぜ夏希」
「へへっ!」
そして、やっと三人分のカキ氷ができた。
私はもちろんイチゴ。夏は緑が好きだからメロン。春はミゾレをかけた。
クーラーとめて窓全開にして、ベランダから三人で足を伸ばし座る。
「田舎みたいには行かないけど、これで雰囲気だけはだせっだろ?」
「うん、ろまんちっくだね」
「おつきさま きれー!!」
ほとんど満月に近い形だった。
「今度は浴衣でもきて食べない?」
「どこまでやる気なんだ?」
「テッテーテキにやり込みたい性格なもので」
「ゆかた ぼくもきたい!」
「そういうとこはお前らソックリだよなぁ?」
頭を痛くさせながら、それでもカキ氷は食べたくなるもので、三人で合計して十回くらいシロップかけた気がする。
それでも大量に買ったシロップはなくなりそうにない。今年の夏のデザートはカキ氷ばっかりだよ?
でも私は大丈夫
三人で食べたものは全部おいしく楽しく食べられるから
ね?
END
2004/07/19
20050405
ひいいいい。