Shall we dance!
目覚ましが、三個同時に部屋中に鳴り響く。
それを慣れた手つきで素早く消すパウリー。
「ったく、もー昼かよ・・・・・」
今日は仕事は休み。
いつもよりも六時間も多く寝たのに、身体がいつもよりダルイ。
嫌々ベットから身体を起こすが、イスにかけてあるスーツが視界に入ると、足をベットからおろすこと躊躇った。
出来れば散らかってる作業着に着替えたいゼ・・・・
いさぎよくなりたいものだが、やはり身体が拒絶してしまう。
そんな時、ゴーグル着用でんでん虫が鳴った。
「目覚ましの次は電話かよ・・・ハイ、もしもし。パウリーです」
「あ、起きてたんかいな」
「あーか」
「あーじゃないわー。早く一番ドック来てやー?ギリギリまで練習するでー?」
「ゲ・・・・」
「ゲーじゃない!パーティでこけたらウチも恥ずかしいやろー!?」
「わ、わかったよ。スグ行くから待ってろ」
「うん。逃げるのナシな?」
「へーへー」
いつもの様に社員宿舎から徒歩五分。いつもと違うのは服装だけ。
普通はタキシードで行くものだが、なんとか普通のスーツにして貰った。
ただでさえ、こっ恥ずかしいことをしなけりゃなんねーのに、タキシードなんて冗談じゃないぜ。
パーティまではシャツを第二ボタンまで開け、シャツもズボンから出したままにしておくことにした。
「傍からみれば、ヤクザやな」
「ポッポー チンピラだ、チンピラ」
「とゆうかパウリー・・・ゴーグルはないじゃろ、その格好で・・・」
たしかに・・・と自分で思いつつ、コレをはずすとなんとなく現実が重く押しかかってくるような気がする。
「大げさやってば・・・」
「わかったよ!はずしゃいいんだろ!?」
はずしたゴーグルをカクに渡す。
「大事に持ってろよ!?」
「わかっておるわい」
「さっ練習しよかー」
がパウリーの前に立ち、両手を握る。
「あぁ。・・・・・・・・・・わっ!?」
「何や、パウリー」
「何って!!お前こそなんだよその服!!!!」
パウリーがパーティー用のスーツを着るのであるから、
当然、パーティーに行くだって正装しなければならない。
それを想定していなかったパウリー。迂闊。
「何を驚いておるんじゃ。可愛いじゃないか」
「ポッポー に対して失礼だ」
「予想はしてたけど、そこまで逃げんでもよくない?」
とパウリーの距離、数メートル。それでも直視するのは困難である。
元は赤いつなぎを着ていた。色は同じ。いつもより露出の多いパーティードレス。
目のやり場なんてほとんど無い。パウリーにとっては。
「大げさじゃ、パウリー」
「知るか!俺はこいつの作業着以外の服なんて見たことねぇんだゾ!?」
「なにをビビっている ポッポー」
「ビビってねぇ!」
ビビってねぇ・・・・けど、こんな格好のコイツと踊るのかよ・・・・
即死行為。
「大げさやっちゅーの」
がパウリーの額を指でつつく。
いつもなら馬鹿のひとつ覚えのように「ハレンチ」という言葉を連呼するパウリーだけれど、
今日のを見て、誰がに「ハレンチ」という言葉を発せられるだろうか。
黙っていたらどこかの国の姫・・・・・
「なんやねん。んなジロジロ見るなよなー」
「テメェ、ずっとその格好なのか・・・?」
「当たり前やろー?今日はパーティやで」
分かっているけど、聞かないでいられなかった。
「観念して練習せい、パウリー」
カクの言葉にドキッと反応する。
「あー!!!!!」
「な、なんやパウリー!?」
「そろそろ行かねェと!時間だ!時間!!」
「え、まだ一時間もあるやん・・・」
「余裕を持って行かねェと何があるかわかんねーだろ!?」
「何があるっていうんじゃ。ただ単に踊るのが恥ずかしいだけじゃろ」
思いっきり見透かされてますパウリー氏。
「はぁ〜分かったわ。そろそろ行こかー」
「ポッポー コシヌケ・・・・・」
「なんとでも言いやがれっ!」
「ンマー!!馬子にも衣装とはこの事だな!!」
「ですね、社長!!」
先に会場についていたパウリーとは社長を見つけた。
「アイスバーグさん、ヒデェ・・・」
「結構似合いますよね?いつもより男前になって!」
「・・・・・!?」
「こらこら。パウリーをこれ以上緊張させんじゃねぇ」
「はァいっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
しても、装飾品だらけの会場だな。てゆうかどっかの城の中かここは!!
そういう神々しい雰囲気が苦手なパウリー。
「これだったらゴーグル持ってくるんだった」
「ウチは恥ずかしいやろー?」
「だって光りすぎじゃねーか、どこもかしこも」
「いいやん。踊りがいがあるやろ?」
照明が落とされ、パウリーたちを招待した張本人にスポットライトが当てられる。
「いよいよ練習の成果を見せるときやでー?」
ここまで来たらやるしかない。俺だって男だ。
と、また大げさな気持ちで緊張している心臓を手のひらでおさえた。
「ンマー!パウリーも踊るのか?」
「・・・・・?全員踊らないといけないんですよね?」
横を見るとが口の前に人差し指をあてていた。
「まさか!!そんなわけあるか!!」
「まじっすか!!」
「ンマー!当たり前だろ?」
「ゴメンってば〜」
「アイツら・・・俺をコケにしやがって・・・・」
恥ずかしさと悔しさを食ではらそうと、口に肉やら酒やらを流し込む。
「でもさーせっかく来たんやから踊ろう?」
「ヤダ!!」
「アイスバーグさんみたいやってソレ・・・・」
「お暇ですか、お嬢さん?」
俺の前に現れた男。俺よりもずっとこの場に馴染んでる男。
少なくとも俺みたいにチンピラみたいには見えない男は、手馴れた手つきでの手をとり、キスをした。
はパウリーの方をチラッと見る。
「な、なんだよ・・・・・」
「君は踊らないのだろう?」
「・・・・・・・パウリー?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「黙ってるって事はいいんだね?」
「じゃあ、行ってくるな?ここで待っててや、ちゃんと」
「・・・・・・・・・あぁ」
あまり聞きなれない音楽が流れ続る中、
「はぁ〜あ」
いつもよりも多く飲んでいる気がする。暇で仕方ない。
「これじゃ食い散らかしに来ただけじゃねぇか・・・」
なにをしにきたんだ、俺。わざわざがほかの男と踊るのを見に来たのか?
「ンマー!パウリー、少し飲みすぎじゃねぇか?」
「あ、アイスバーグさん」
「飲みすぎは身体によくねぇゾ?」
「いやいや社長。ワインボトルで飲んでるアンタに言われたくないですよ」
「ハハ!そうだな!!・・・・・あれ、はどーした?」
スッと指で踊っているを指でなぞる。
「なんだパウリー。とられたのか」
そして嫌味な感じで笑わう、アイスバーグ。
「その言い方やめてください。俺は踊りたくないだけです」
「変わんねぇなぁ・・・・・」
「何がですか」
「が来てから、少しは女に免疫出来たのかと思ったんだけどな」
「・・・・・・・・・・」
「が来てから、少しは女に免疫出来たのかと思ったんだけどな」
「・・・・・・・・・・なんで二回言うんですか」
「が他の男と踊ってるぞ?」
「分かってますよ」
「あ、あの男か。セクハラ男で有名なここの会長の孫・・・・・・・」
「俺、行ってきます!!」
「アイツ、殴り飛ばしたりしねぇだろうなぁ・・・・んまー、いいか」
「さん。今度一緒に食事でも行きませんか?」
「行きません」
「いいレストランがあるんです」
「行かへんってば」
「綺麗ですねぇ、さん」
「ありがとうございます」
「今から僕の部屋に行きません?」
「行きません」
踊っている最中に女を口説きに口説きまくっている男に、それをきっぱり断っている女。
なのに誰にも負けていないくらい滑らかに踊っている。
「み、見つけたぜ!」
どれだけ人がたくさんいても、を見つけれる自信はあった。
「踊るぞ!!!」
「な、なんだよ君は!!」
「コイツ、貰っていきますから」
「さんは僕と踊っているんだ!君は踊らないって言ったじゃないか!」
「んな事言ってません」
「・・・・パ、パウリー・・・・????ひゃあっ」
パウリーはの肩をつかんで引き離した。
「さん!!」
「俺のツレです」
「君みたいな男にさんは似合わない!」
「分かってんだよ、そんな事は!!!なんか文句あるか!!!」
「・・・・・!?」
「・・・・・・・・・」
「あ、逃げた・・・・・」
「腰抜けめ・・・・・・」
「パウリーもやん」
「なんだと、テメぇ!!!」
「でもカッコよかったよ〜」
「・・・・・・・・・・・フンッ。さっさと踊って帰るぞ」
「はいはいっ」
「まったく・・・・・何しにいったんじゃパウリー」
「ポッポー 倒れに行ったのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
昨日、踊りだしてほんの数分。パウリーはステップを間違えてに足を踏まれ倒れたのだった。
「ホンマどうやったらあの状況でコケるんやろ・・・・」
「謝ってるだろうが!!」
「しかもを他の男と踊らせるとは・・・・ホント甲斐性なしじゃな」
「ポッポー 知っていたけどな」
「・・・・・・・・うるせーなクソォ」
「でもウチをかばって倒れてくれたのには感謝っ」
「ほぅ?やるじゃないかパウリー」
「うん、また踊ろうな。リベンジリベンジっ」
そのままはパウリーの肩に両手をおいて、右頬に口を寄せた。
チュッ
「「「!?」」」
「ななっ、なにすんだテメェ!!!」
「お礼のチューやん」
「せんでいいわ!アホ!!!」
もう、一生ダンスパーティーなどには行かないと心に誓った瞬間。
酔っていたから我慢できたのかもしれない。じゃなけりゃ、あんなにくっつくことが出来たはずはない。
「〜〜〜・・・・・・・・・・・」
・・・・・でも、まんざらでもないとか思ってしまった自分に腹が立つパウリーであった。
END