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「飛ばしすぎじゃない?春風くーん」
あなたの腰にきつくしがみ付いていなかったら、なんのことなく飛ばされてしまいそう。
「が軽すぎんだよっ」
「いつもヒカルくん乗せてれば、そう思うでしょ」
なぜか私の自転車で二人乗り。
春風くんが乗ると、すごい小さい自転車に見えるなァ。
「こんだけで良かった?」
「いいんじゃねーか?こんだけありゃ十分 十分」
文化祭の買出しに抜擢された 私たち二人。ペンキを何色か近くのスーパーまで。
「俺ら いじられっぱなしだから丁度よかったな」
クラスの作業してたら いっつもひやかされるからなァ〜
「いっつもいっつもみんな飽きずにさぁ〜。普通に話してるだけじゃないの」
「いいじゃん。そのおかげで二人で買出しできたんだし」
「ま〜そうなんだけどさ〜」
とりあえず春風くんの背中、おっきぃんだよなァ。
「ねェ、腰持っちゃダメ?」
「そこだけはカンベンして。俺そこだけは持たれるの無理」
春風くんの弱点 腰。
「じゃあ絶対立ちこぎとかしないでね」
「わーった」
「ゆっくりね」
「わーった」
素直に減速。安全運転になった。
もーちょっとだけ、この態勢でいたいからというのが私の本音。
「そろそろ涼しくなってきたなァ もう十月だもんなァ」
「風があたってちょっと寒いッス」
「学ラン貸そうか?一応持ってきたぜ?」
足で自転車を止め、カゴに入ったぐちゃぐちゃになった制服を取り出す。
それを私の肩にかけてくれた。
「サンキュー」
「風邪引かれたら困るからな」
「ご心配ありがとうネ」
本当の事いえば、アナタから伝わる温もりで十分な気もするけど、
こういう優しさは素直に受け取っておきたいし、愛されてる実感が湧くからね。
「しっかり捕まっとけよ。ボーってして落ちてりゃ世話ねェからな」
「はーい」
学校まで約10分というところが、もうすでに15分くらい経っていると思う。
両脇 田んぼだらけの道を越え、車があまり走らない道路をゆっくり過ぎる。
ここらへんの道はゴツゴツしているから、長時間乗っているとおしりが痛くなってくる。
でも、我慢だガマン。
残念。もう学校についちゃったよ。
「やだよなァ 帰るの」
ブレーキをかけて、春風くんはそう言った。
「へ?」
「ペンキもまだまだ残ってるし、第一俺たち、あの状況から逃げ出したかっただけなんだしな」
やっと目をあわせたと思ったら、春風くんは笑顔で言った。
「海 行くかっ」
「・・・・・・・・うん!」
少し期待していたけれど、やっぱりいつも唐突で驚く。
「じゃあ 行くかっ!今度はスピード上げて行くからなっ」
私はあなたの爽やかな笑顔とその言動にいつも酔わされている。
春風くんは、それを素でやってのけてしまうからスゴイと思う。
「どこへでも連れさって下さいっ」
ちょうど地平線の向こうに夕陽が見える。
堤防の上、私を乗せたまま自転車を手で動かす アナタ。
「もう少しで 誕生日・・・・だね?」
「よく覚えてたな・・・・てか知ってたのか」
「好きな人の誕生日は自分の誕生日より大事だもん。当たり前だよ」
「そんなもん?」
「そんなもん」
夕陽のせいでよく分からなかったけど、少し耳が赤くなっているのが微かに分かる。
「ねェ 何か欲しいものある?」
「欲しいもの・・・・・・」
「『お前・・・・・』とか?」
「アホ!!!」
分かりやすいなァ 春風くんは。
別にいいんだけどなァ。そういうとこ堅いんだもんなァ。そういうとこが好きなんだけどさァ。
「思いつかねェなー・・・・・どうしようか」
「欲がないな 春風くんは」
「だってソレ以上に幸せだし」
「私がいるから?」
「そーだよ わりぃか?コンニャロー」
「でもソレじゃだめ。どうしたい?」
自転車を押すのをやめたアナタは急に考え込んだ。
「んーじゃあ一日 俺と一緒にいて欲しいかな」
「・・・・・・・・・・は!?何言ってるの!?春風くんってば、やらしい!!」
「バッ・・・・!バカヤロー!!ちげーよ!!!」
そう春風くんが行った途端、自転車が大きく揺れ、
「わっ・・・・・・・・・」
なんにも掴まっていなかった私は身体は後ろに。
「ちょ・・・・・・・・危な・・・・・・・・!!!!!??」
自転車は横に大きく倒れ、私の身体は 春風くんの胸の中にスッポリ。
「あ、ごめん。アリガトウ」
「・・・・・・ったく、ホント寿命縮むから・・・・・・頼むから心配させるなって・・・・・・・・」
「ごめんね ママ」
「ふざけるなよ。俺がいなかったらお前・・・・・打ち所悪かったら・・・・・・・・」
そんな真剣な目で見られると、怖いというか恥ずかしい。
「怒らないで・・・・・・・・」
「怒ってないだろ?心配してんだろ?」
「はい。ごめんなさい・・・・・」
軽々と私を持ち上げ、私を立たせる。
「やっぱり一日一緒にいてもらおうかな?断る権利は無いからな」
「うぅ〜パパが許してくれるかどうか・・・・・」
「いいじゃん。一日くらい俺のために空けて欲しいんだけど?」
頭を撫でられるかと思ったら、その大きな手は私の頬を撫でる。
「ゆ 優等生が何をいうっ。パパ、せっかく春風くんの事気に入ってるのに・・・・・」
「家にいたらいい 夜迎えに行くから。俺が意地でも連れ出すから」
「話を勝手にすすめるな〜」
「・・・・・一番にオメデトウを言って欲しいんだけど、ダメか?」
私は俯く。アナタはそれに負けずに笑いかける。
「・・・・・・・・・・・・・」
それに、そっと頷く。
「・・・・・・まったく 安上がりな彼氏だよ」
「だろ?」
喜んでいるアナタに私もつられて笑顔になった。
パパ、ごめんね。一回くらい門限破らせて。大好きな人のためなの。
罪悪感よりも、夜のデートが楽しみで仕方が無くなってきている。
いつもよりも大胆になっている愛するアナタへの 最高のプレゼントになればいい。
私だって誰よりも先に、アナタにおめでとうを言いたいから、ね。
END