もう引越ししたいくらい。





BELOVED




「大げさだなー。オマエ何年住んでんだよ、千葉に」

26年です。

「自分でもよく我慢できたかと」

となりには自分の旦那様。その旦那様の背中には天使が眠っています。

今日一日、遊園地ではしゃぎまくっていたこのお二人。一人はもう遊園地を出た瞬間からギブアップ。

遊園地の夜のライトアップを見るのを少し楽しみにしていた私だったけど、帰り道の歩道橋の控えめな明かりもいいな。

なんとか隣の二人の表情が見えるくらいでちょうどいい。




ヨイショ、と落ちないように担ぎなおした貴方のマフラーがほどける。

「ちょっと止まって・・・」

私は今度はソレをしっかりと結びなおす。

「ありがとう。・・・オマエ鼻赤いな。そんな寒い?」

私の顔を見た貴方は、別にバカにしているような笑顔ではなくて、

むしろ微笑まれて、鼻だけでなく頬っぺたまで赤くなりそうで。

未だに夫にときめくことが出来るのは、やはり昔から変わっていないこの人のせいだろう。

「寒い・・・うん、寒い」

手袋を忘れた。息子の手袋を持って、自分のを忘れてしまったのだ。

「うんなら・・・・・ヨイショ」

そういった貴方は後ろの夏希を前で抱きかかえる。

「え、起きちゃう・・・・」

「大丈夫だって。に似て、なかなか起きないから夏は」

昔から変わらないニカッっとした笑顔を私に向ける。

「う・・・・ひどい・・・・」

このやりとりも昔からまったく変わらないでいる。




「おい、。俺の手、一本空きましたけど、どうします?」




そう言って差し出された手。大きな手。

寒さに強いこの人は、雪の日でもない限り、手袋なんかしない。

本人曰く、カイロ人間らしい。

「ほら、どうしたっ?」

「一つ、下さい・・・・・」

「オネーサン、美人だから今回は特別価格っ」

「まぁ嬉しい」

「キスだけでいいですよー」

「・・・・・・んまぁ、帰ってからねっ」

「そいつは嬉しいね。じゃあ、ほら、どうぞ」




そして私の右手はカイロでつつまれる。









「白い息ってよけいに寒く感じてイヤ・・・・」

「はー・・・・・・・」

私の視界が白くにごる。

「何ソレ・・・。いやがらせ?」

「俺、面白いから好きだぜ?」

「面白い?」

「火ィ吹いてるみたいじゃん」

「・・・・・温度差ありすぎ。炎出してくれたら言うことなしなんだけど」

「・・・・ったく。本気で寒がりだな、はよっ」


そういって小突かれる。寒い空気にさらされる私の手。


「離さないでっ!寒いんだから!」

「へいへい。ほらっ」


実は片っ方のポケットの中には大きめのカイロが一つあったりする。

でも、私の身体は本能的に彼の手を選んでしまうらしい。





むしろ彼の手のほうがあったかくて心地いい。






「やっぱり春の手はあったかいねー。尊敬するよっ」

「お前は本当に冷え性治らないんだな〜」

「どっかの意地悪が冬の海に連れ込んだからじゃないかな?」

「それまだ根に持ってるのかよ、そんな昔の話・・・」

「当たり前でしょ!?普通の人間なんですから私は」

「俺は普通じゃないってぇのか?」

「普通の人は冬の海は観賞するものって分かってるもの」

「・・・・・だって、海ってはしゃぎたくなんねぇ?」

「海で育ったもんね、春は」

「お前もだろ?」

「冬は別ですから」

「そーですか・・・」










そろそろ私たちの家が見える頃。マンションなのですぐに見つけられる。

「やっとついたね。変わろうか?」

「いや。いい筋トレ代わりにちょうどイイ」

「コラコラ・・・・」

そう言って春が抱えなおした瞬間。








「・・・・・・雪?」

「お」

寒いのはイヤだけど、雪を見るのは好きという矛盾。

「スキー行きてぇなー」

「てゆうか温泉」

「有給とっちゃうか」

「え!?ホント!?」

「どこがいいんだ?」

「北海道とか長野とか・・・温泉ならどこでも!」

「沖縄とかでもいいんだぜ?」

「それは冬以外に行かないと泳げないよ?」

「でもまぁ、あったけぇからいいんじゃない?」

「いいよ!旅行ならいくら寒くてもいいっ」

三人でいけるならどこでもいい。

「じゃー北海道にキツネにでも会いに行きますか」

「うん」












しんしんと降っている雪。

そんな雪で鼻を赤くしているアナタはとても無邪気に笑う。

「積もればいいなァ。雪遊びしてぇ」

「節操なしね」

「多趣味なんだよっ」

皆でワイワイする事が好きな貴方にずっと付き合っていたから知ってますよ、そのくらいわね。




「って、すっごいワタシって春に尽くしてると思わない?」

「ん?なんだいきなり」

「だってさー。私は千葉から離れて九州とかに住もうーとか言ってたのにさ、結局春の意見で通したわよね」

「え、あれ本気だったのかよ。冗談だと思ってた」

「だってやっぱり海沿いは寒いんだもん」

「やっぱさー地元から離れるの、寂しいじゃねぇか」




まー分からなくもないけど・・・

「好きなんだよ。ココが」

「分かった、分かった」

「オメー馬鹿にしてんだろ」

「いいえ。私も好きですもの、なんだかんだ言って」

「だろ?」

「それ以前に、亭主関白ですから、わが家族は」

「オイオイ。愛妻だろ?愛妻」

「ふふっ・・・・」




そんなことを話して、気付いたら目的地前。

もう一つ気付いたことは、私が寒いのに耐えられるのは貴方のおかげ?

体感温度というのは一緒にいる人とでは結構違うんじゃないかと思う。

いや、旦那様がカイロ人間っていうことじゃなくて・・・・






「先風呂入れ。その間に部屋あったまんだろ」

「ありがとう、春」

「お前すぐ風邪ひくからなー」






そんなこんなで丸く収まる。

貴方への愛で簡単に絆される。


「夏希と一緒に入るね」

「あァ。なんか温かい食べもんでも作っておいてやるよ」

「ん。ありがとう」






この上なく貴方に対して単純な思考回路で、ずっとこの場所から離れられないでいる。

でもそんな自分が好きなんです。









end





アトガキ
恐ろしい・・・三日くらいかけた・・・長い・・・
書けない・・・書けなさすぎる・・・愛だけはあるんですが・・・(何)
早く映画見に行きたいなー。バネさんに会いたい〜大黒さんの声聞けたらいいな。
とにかく六角出してくれればなんでもいいですよ・・・・